Uber の決算を読んだ話
Uber Technologies, Inc. の FY2023 決算をさらっと読んだので、自分用のメモを書き残しておく。参考資料は以下の通り。
3 つの事業
Uber の事業は 3 つのセグメントに分かれている。
- Mobility: ライドシェアリングなど幅広い交通手段と消費者をつなぐサービス
- Delivery: レストランから食料品その他の小売店と消費者をつなぐサービス
- Freight: 荷送人と運送会社をつなぐサービス
Gross Booking(税金や手数料を含む消費者が Uber のサービスで支払った金額の合計で、チップを含まない金額)で比べると Mobility と Delivery が同程度で、Freight は比較的小さい。
内訳を見ると、FY2023 は Mobility 事業が $68,897M で売上全体のおよそ 50.0% を占めている。Delivery が 46.2% で残り 3.8% が Freight となっている。新型コロナウィルス感染症が流行っていた時期には Delivery の方が大きかった時期もあった。
売上で見ると FY2023 の Mobility 売上が $19,832M で全体の 53.2% を占めている。Gross Booking 金額に対する割合は 28.8% なので、顧客が支払った金額の約 3 割は Uber の懐に入る。Delivery の売上が Gross Booking に占める割合は 19.2% なので Mobility の方が take rate が大きい。なお、後述する Uber One の売上は Mobility と Delivery のセグメントに(Uber One に加入した顧客からの売上比率に応じて)配分されている。
上場時の Form S-1 によると Mobility(Ridesharing)が売上全体に占める割合が遥かに大きかったので、それだけ Delivery セグメントが急速に成長したことが分かる。
FY2018 は Ridesharing 事業の Gross Booking が $41,513M で売上全体の 83.4% を占めていた。
以下に引用する上場時の trip あたりの Gross Booking 金額を見ると、徐々に低下していることが見て取れる。これはより近い距離の移動でも Uber が使われることになったことを意味していそう。なお FY2023 の trip 数は 9,448M 件で Gross Booking が 68,897M なので、trip あたりの booking 金額は $7.3 となる。
FY2023/Q4 では MAPC: Monthly Active Platform Consumer が 150M で trip が 2,601M なので、1 アカウントあたり四半期 trip 数は 17.3 回、月間では 5.8 回となる。
1 trip $7.3 で 5.8 回利用するということは、毎月 1 回以上 Uber のライドシェアを利用する顧客は 1 ヶ月あたり $42.3 を Uber に支払っている計算になる。
ちなみに利用者のおよそ半分は月 1~2 回の利用なので、まだまだ成長の余地が大きいとも言える。
Delibery は 5 年で Gross Booking が 8 倍の $64B(!)に成長し、収益性も向上しているようだ。
財務諸表を読む
FY2023 の Form 10-K を読む。
貸借対照表
Uber のライドシェアやデリバリーの事業を運営している。事業で使われる車やバイクなどの固定資産は運送や配達サービスを提供する者(Driver や Courier と呼ばれる)が保有しており、Uber 社では所有していない。
BS 上の非流動資産の多くはのれんや出資によるもの。例えば Uber は同社の中国事業を DiDi に売却したが、その見返りとして DiDi の株式を受け取っている。東南アジアでは Grab に事業を売却し、同じように株式を受け取っている。
Uber は長年損失を計上しているが、社債などで資金を調達しており非流動負債の半分以上は社債となっている。FY2023 では 9,459M が非流動負債として計上されている。社債は流動負債にも含まれているので、合計金額はより大きいと考えられる。
他に流動・非流動負債で特徴的なものとしては Insurance Reserve が挙げられる。Uber は保険支払いのための準備金を負債として計上している。引当金額は FY2023 で $6,738M とされている。この計算方法に関しては SEC Filings に書かれているが、要は走行距離や過去の損害発生事例などを参考に「Uber の事業で発生する損害のうち、Uber が負担するリスクを見積もった金額」を負債として計上している。
Insurance Reserve への繰入れた分だけ費用と負債が増加するが、実際にキャッシュアウトはしないのでキャッシュ・フロー計算書上では加算されている。
損益計算書
FY2023 は通年で初めて利益を計上した。
地域別の売上を見ると、北米で半分以上の売上を上げている。成長率で見ると 2 年で 3 倍以上になっている EMEA の成長が目立つ。APAC は(中国と東南アジアは実質的に撤退しているので)インドやバングラデシュ、韓国、台湾、日本、オーストラリア、ニュージーランドが含まれていそう。
対 Gross Booking 比でサポートの自動化や決済手数料の volume discount、不正決済の減少、従業員数の伸びが減ったことなどでコストが減少した結果として margin が大きくなっている。
FY2023 からは継続的に利益が出るような構造になっているようだ。
キャッシュ・フロー計算書
Uber は継続的に損失を計上してきたが、上場前後の株式発行や毎年の社債発行で資金を調達している。
FY2022 は $9,138M と巨額の net loss を計上しているが、うち $7,045M は株式の公正価値の変動(DiDi や Grab, その他の会社への出資)によるもので現金の支出を伴わず、営業キャッシュフロー上では加算されプラスになっている。
また、毎年 $1B ~ $2B を株式報酬として役員や従業員に支給しており、これは現金支出を伴わない。そのため、損益計算書上は損失を計上していても営業キャッシュ・フローはそれほど凹んでいない。
Uber One について
Uber は「Uber One」という会員向けサービスがある。Uber One には次のような特典があり、月額 $9.99/年額 $99.99 で提供されている。
- Mobility や Delivery を割引価格で利用できる
- 利用者から高い評価を得ているドライバーとマッチングする
- ドライバーの到着が予定より遅れた場合にクレジットを得られる
- 一部の料理や雑貨、食料品の配達料が無料
- 手数料やペナルティ無しでキャンセル可能
- メンバー限定のプロモーションやサービスを受けられる
24/Q1 決算によれば、この会員権による収入の ARR は $1B を超えている。Uber の年間売上と比べれば 3% にも満たないが、Uber One は 2021 年に始まったばかりのサービスであることを考えると大きく成長している。
また、2024 年 3 月には Mobility と Delivery を合わせた Gross Booking の 32% を Uber One 会員が占めている。2024 年 2 月の Investor Update によれば Delivery では Gross Booking の 45% とのことなので、FY2024/Q1 の実績から逆算すると Mobility は約 20% が会員による注文という計算になる。
参考: https://techcrunch.com/2024/05/08/uber-promises-member-exclusives-as-uber-one-passes-1b-run-rate/
Instacart が上場するとき Form S-1 読んだのだが、 Instacart+ の会員権収入だけで少なくとも $500M はあって、かつ会員による購入が GTV の約 6 割もあった。
Uber や Instacart のような日常的に使われるサービスで顧客のエンゲージメントを高め 1 アカウントあたりの取引額を増やす上では日常生活の中の適切な機会でいかに想起してもらうかが重要だろうから、このようなサブスクで客の心に入り込むのが合っているのだろう。